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漢訳とは?
- 順古故(じゅんここ) - 古例という既にあった方法にしたがい翻訳せず。
中国仏教の源流を開いた摩騰迦(まとうが)や竺法蘭の時代よりの慣わしにより、すでに衆人によりその意味が知られていたもの。
たとえば阿耨多羅三藐三菩提(あのくたらさんみゃくさんぼだい、略して阿耨菩提)などの語類がこれにあたる。 - 秘密故(ひみつこ) - 甚深微妙で不可思議なる仏の秘密語であるがゆえに翻訳せず。
たとえば、般若心経の最後の一節「羯諦 羯諦 波羅羯諦 波羅僧羯諦 菩提薩婆訶」のような真言・陀羅尼などの語類がこれにあたる。 - 多含故(たごんこ) - 多くの義を含むがゆえに翻訳せず。
たとえば、自在・熾盛・端厳・名称・吉祥・尊貴という六義(6つの義・意味)という複数の意味を含む婆伽婆・薄伽梵(バギャバ・バガボン=バガヴァート、世尊と訳す場合もある)などの語類がこれにあたる。 - 此方無故(しほうむこ) - この地方(中国)にない意味や言葉であるがゆえに翻訳せず。
たとえば、閻浮樹(えんぶじゅ、閻浮提にあるという想像上の大森林)、乾闥婆(けんだつば)、迦楼羅(かるら)などの語類がこれにあたる。 - 尊重故(そんちょうこ) - 善を生ぜんがために翻訳せず。
たとえば、般若や仏陀のように、これを聞いた者は心に信念を生じるが、もし般若を知恵と、仏陀を覚者などと単純安易に訳せば、浅はかに軽んじられることが免れず、敬心を保つことが難しい語類がこれにあたる。
日本語の語彙についてみると、中国で生まれた漢語に混じってサンスクリットやパーリ語などの仏教用語が漢訳された語が数多く見出される。
さらに近代には、英語やフランス語、ドイツ語などで使われている抽象概念や、科学技術用語から、意訳による漢訳を通じて中国語や日本語、朝鮮語、ベトナム語などに入り、定着している単語は非常に多い。
しかし、日本語や朝鮮語は表意文字である漢字とは別に表音文字を持っているので、漢訳を行なわなかったり、漢訳されてできた漢語が定着しなかったりして外来語として原語の音そのままで借用されている例も多く、時代を追うごとにその傾向は強まりつつある。
明治維新において西欧を目指す近代化を進めた日本は、西洋文明を急速に消化・吸収する必要に迫られ、西欧の概念を翻訳するために大量の漢語が造語されたり、古くからある語に翻訳語として新しい意味が与えられたりした。
このような漢訳が西洋文明を学ぼうとする多くの日本人にその理解を容易ならしめて近代化を助け、また漢語の本土である中国にすら逆輸入されて使われた語も少なくないことは、特筆すべき現象である。
このような翻訳が可能だったのは、少なくとも二つの原因が考えられる。- 幕末・維新で文化的に指導的立場にあった人たちは、みな漢籍の素養があった。
- 翻訳される元になる用語が、英語のみならず、フランス語やドイツ語でも確定されており、互いに参照して比較することができたので、意訳を行いやすかった。
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